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吉田朗・作「渋谷猫張り子」改変事件に関する補足と、署名活動へのご協力のお願い

吉田朗を応援してくださる皆様、関係者各位、

2023年2月23日に弊社ウェブサイト上に掲載した「吉田朗の作品に対して行われた著作権の侵害、無断改変された作品の公開等の問題について。」に対して大きな反響をいただきました。このような事件で世間をお騒がせしていることを心からお詫び申し上げると共に、皆様方のあたたかいご声援に深く感謝申し上げます。

「渋谷猫張り子」作品設置直後の様子 (撮影:田中太郎)

私達は過去約半年に渡り、三井不動産株式会社(以下、三井不動産)と交渉を続けて参りました。交渉期間中は相手方への配慮から、事実に言及することは一切控えておりました。しかし、残念ながら既に交渉は決裂しております。それでも事実への言及は覚悟を決めた上での苦渋の選択でした。孤独な闘いの中でもがき苦しんでいた私達に、まさかこんなにも多くの激励の言葉をお寄せいただけるとは、正直なところ想像すらしていませんでした。コメントのおひとつおひとつに日々、救われています。お一人お一人のいいね、リツイート、コメントが重なり、大きな力となりました。twitterでの関連投稿の閲覧回数合計は250万回を優に超えています。

多くの質問も寄せられました。特に作品に関する何かしらの取り決めがあったのか、という部分です。前回公開した文章の中では、あえて触れてこなかった事実が多数ございます。ただ、これだけ多くの皆様が本件にご注目して下さった今、疑問にお答えする責務があると感じ、前回の補足をさせていただきます。

「渋谷猫張り子」が制作された当時、私達は三井不動産と、作品の設置先であるsequence MIYAHSITA PARK内「SOAK」の運営会社であった株式会社BAKERU(当時の社名は株式会社東京ピストル、以下BAKERU)と「著作物の制作に関する契約書」を締結しております。作品設置時から現在に至るまで、作品の所有権は三井不動産に帰属しています。

契約書の具体的な内容については守秘義務に基づき、ここで述べることは避けさせていただきます。ただ、そこには著作者である吉田朗が持つ権利が明確に示されております。三井不動産が作者に無断で作品改変の許可を出し、改変された作品を了承を得ずに撤去したことは明確な契約違反です。

また、BAKERUについても契約書に照らし合わせると、自社が事業を譲渡した、という重要事項をアーティスト側に一切告げなかったことは、非常に無責任だと言えます。

ただ、直接的な著作権侵害、及び著作者人格権の侵害行為を行なったのは、現在の運営会社である株式会社マザーエンタテインメント(以下、マザーエンタテインメント)であり、それを許可したのが三井不動産になります。

左: 改変前の「渋谷猫張り子」が「SOAK」に展示されている様子 (撮影:田中太郎)
右: 改変された作品が「SOAK」に展示されている様子(撮影:吉田朗)

事件発覚から現在に至るまで、私達が一貫して最優先事項にしているのは、傷つけられた「渋谷猫張り子」の修復(作品の原状回復)と再設置(再び公開すること)です。作品や作者の名前を覆い隠すラッピングシートの接着に使用された接着剤「ダイノックプライマー」は日を追うごとに接着力が増します。そのため、被害は現在も日々深刻になっていることが予想されます。作品を取り戻し、修復することは緊急事項なのです。

修復を実現するには、作者の手元に作品を戻す必要があります。そこで私達はマザーエンタテインメントと著作権侵害で争うのではなく、まずは作品の所有者である三井不動産と話し合いをすることにしました。たった一人のアーティストと小さな会社が、日本を代表する大企業である三井不動産と、弊社とは比べ物にならないくらい大きな会社であるマザーエンタテインメントという複数の相手と同時に交渉するのは、様々な要件から難しいという側面もございます。

三井不動産はこちらからの最初の問い合わせに対する回答書の中で、作品の改変に関する一定の責任を認め、作品の修復や再設置に協力する意向を示しました。私達はその言葉を信頼し、具体的な交渉をはじめたのです。

しかし、三井不動産は契約違反を重ね、改変された作品をこちらからの了承を得ずに展示場所から撤去し、東京近郊にある倉庫に隠してしまったことは先日記載した通りです。

さらに、当初の回答書の内容を覆し、再設置は難しいと表明してきました。その上、再設置をしないのであれば、作品の修繕をする必要があるのかどうかも含めて、社内で話題になっている、とさえ伝えられました。

そもそも、私達が作品の再設置を要請した理由は、契約に違反した三井不動産自体が作品の修復に協力し、再び作品を設置して、公開状態に戻すところまでを行ってくれれば、この不名誉な事件に不必要な注目を集めないで済むと考えたからです。それは三井不動産にとっても、アーティスト側にとっても望ましいことのはずです。

もっとも、作品をあのような姿に改変した「SOAK」の現運営会社であるマザーエンタテインメントが、オリジナルの「渋谷猫張り子」が店舗に戻ったところで、どのような扱いをするのかは想像に難くありません。そこで交渉の過程では、せめて背中に「渋谷」の文字を背負い、その場所のために制作された「渋谷猫張り子」という作品の本質を守るためにも、できれば渋谷の別の場所での再設置に協力して欲しいことも伝えました。さらに、共に不幸な歴史を乗り越えたい、という想いも伝えました。私達は三井不動産を敵として戦ってきたのではなく、協力者になることを求めていたのです。

しかし、三井不動産は最後まで当初の回答書の内容を翻したまま、作品の再設置に対して非協力的な態度を頑なに取り続けました。

吉田朗のアトリエにて、作品が完成した時に撮影した写真 (撮影:吉田朗)

交渉の最後で私達は、三井不動産側から示された再設置への協力の撤回を受け入れました。また、アーティスト側で作品の再設置先を探すという条件も、不本意ながら受け入れることにしました。事件から既に約半年が経過しています。これ以上交渉が長引くと、修復そのものが不可能になってしまうからです。

そこで、「渋谷猫張り子」を速やかに修復し、1日も早く新しい展示場所を探すため、作品が隠されている遠方の倉庫まで、自ら出向くことを申し入れました。また、現地で作品の破損状態の確認と記録を行なった上で、すぐに作品の引き取りを行いたいとも伝えました。しかし、三井不動産は破損状態の記録を拒み、作品検分時の即時引き取りも認めませんでした。

さらに「『渋谷の作品なのに千葉のこのようなところに存置されてしまっている』 などという趣旨で記録されるということなのでしょうか。」 と、こちらを疑う発言すらありました。これまで被害者であるにも関わらず、真摯で誠実な交渉に努めてきた私達は著しく侮辱されたと感じました。

相手側の要求を受け入れて行動を起こしたところ、それを阻まれてしまっては、もはや解決のしようがありません。その時点で交渉は決裂しました。

この半年に渡る交渉は三井不動産側が当初、一定の協力姿勢を見せておきながら、その後は前言を翻し、加害者側が自らに有利な条件を被害者側に出し続けるというものでした。情けないことに、私達は先方の一貫性のない対応や発言のたびに傷つき、苦しみ、翻弄されてしまいました。自分たちの不甲斐なさを痛感しております。

精神的に追い込まれた私達は、必死に話し合いを重ね、自分達にとって最も大切なことは何かを考え抜きました。

交渉の期間中、事件を何も知らない弊社クライアントが「渋谷猫張り子」の作品写真を紹介したいという企画が持ち上がりました。吉田朗が作品の著作権者として自らの作品写真を公開するのは当然の権利です。ただ、当該作品に関する話し合いをしていることを考慮して、三井不動産側に掲載についての見解を尋ねました。そこで得た回答に私達は大きなショックを受けました。弊社の長年のクライアントに対して、全ての経緯を隠し、「所有者の意向で作品は展示できなくなった」と告げること、また作品写真の掲載を拒否するよう求められたのです。

先の記事でも申し上げたとおり、吉田朗は社会に潜む矛盾や闇を自らの作品を通して炙り出すことをテーマに活動してきています。それを踏まえて、事実を揉み消されることだけは耐えられない。この一連の事件を形として残そう、という結論に達し、先日の事実への言及に踏み切りました。

なお、現在、私達は三井不動産からただの1円の補償も受けておりません。作品の修復を行うにはそれ相当の費用がかかり、事件解決のために依頼した弁護士費用も嵩んでいます。そこで当初は、数々の契約違反に対して、ある程度の慰謝を受けるのは当然と考えておりました。しかし、事実に言及する時点で、金銭が一切支払われなくても構わない、という覚悟を決めました。

そもそも、慰謝に関する具体的な交渉すら始まっていない状況ですが、例えこの先どのような慰謝が行われても、これまで半年に起きた事象が償われることはありません。ですからこれ以上、文化や芸術、またアーティストである前に人に対する冒涜が行われないよう、事実に言及して社会に形として残すことの方に価値があると判断しました。

繰り返しになりますが、私達の最優先事項は作品の修復と再公開です。
法廷に持ち込んで勝訴を勝ち取ること、何かしらの慰謝料を受けることは優先事項ではありません。作品の修繕は緊急事項であり、現時点では長期に渡ることが予想される裁判を行い、判決を待つ時間すら残されていないのです。

また、交渉の期間中、作品をこちらの許可なく撤去された経緯がございます。そのため、所有者にとってはもはや価値のない、倉庫にしまい込まれた造作物でしかない作品を、無断で破棄されるのではないか、という不安を常に抱えております。

そこで私達は署名活動を行い、三井不動産に対して「渋谷猫張り子」と、その所有権をアーティストへ即時返還することを求めて参ります。

→ change.org : 無断で改変された吉田朗の作品『渋谷猫張り子』を救いたい!

先日申し上げた通り、修復に成功した暁には、作品を愛し、大切に展示してくださる方に寄贈したいと考えております。私達から皆様にできる唯一のお礼は、蘇った「渋谷猫張り子」をご覧いただくことです。それを実現するためには、作品を一刻も早く救出し、作者の手元に取り戻さなければなりません。

皆様方おひとりおひとりの力だけが頼りです。ぜひ、私達の署名活動にご協力賜りますようお願い申し上げます。

アーティスト       吉田朗
有限会社ユカリアート代表 三潴ゆかり

 

 

 

 

吉田朗が「渋谷猫張り子」を制作する際に作った作品プラン